小説ですw

さて、もう「起承転結」の 起 が出来上がりました。
ここからどう展開するのか…ちょっと心配になってきましたが。


楽しんでいただければ、幸いです。
ということで、目隠し…できてるかな?


一応、後でこちらのリンク(ネタバレ)を見ることをオススメします。


タイトル「黒猫は闇に笑う」




1.宇井は朝に笑う


「おはよう。いつも早いね」
「あ、宇井さん。おはよっス。仕事がやりやすいんスよ」
 宇井がオフィスに入って声をかけると、デスクのひとつから声が返ってきた。
 声の主は、黒井という。宇井の1年後輩ながら、鋭い意見の持ち主だ。いつものことながら、感心する。本人は、"ちゃっちゃ"とやって"ちゃっちゃ"と帰りたいからと言うけれど、そんなに早くには起きられない。
「黒井くん、頑張るよね」
「いやいや、ゆっくりやらせてもらってまスよ」
 宇井は、上着を脱ぐのも面倒そうに、パソコンの前で起動を待ちはじめた。
「なんか、そわそわしてますね。どうしました?」
「昨日、ネットで知り合いに教えてもらったソフトがあるんだよ。試してみたくてね」
「へぇ。どんなんです?」
「なんか、怖いものらしい。ジョークソフトって言ってたよ」
そういって自分の席に座った宇井は、おもむろにフロッピーディスクを取り出した。
「持ってきたから、やってみる?」
「やってみます」
宇井が、自分のパソコンを起動している間に、フロッピーを預かってファイルを見てみた。
「あ、その『hikaru.lzh』ってやつね」
「了解…軽いファイルっスね」
「有名らしいけどね。アンチウィルスソフトによっては、ウィルスと判断するらしいよ」
「だ、大丈夫なんスか?」
「パソコンを壊したり、のっとったりっていうのは無いって」
「コピーしたんで、フロッピー返しますね…解凍したら、かわいいアイコンがでてきましたけど」
「お、そうか。で、どう?」
「…起動してみましたけど、なんも無いっスよ」
「ふーん…じゃ、壊れてるのかな?」
「本当にウィルスだったりしたら、シャレになんないスね」
「あっはっは。それはないだろう」
 笑いあうと、仕事に戻った。ふたりとも「アパレル猫屋敷」という、ちょっと聞いたらふざけているかのような名前のアパレルメーカーで卸の営業をしている。
「黒井くん、悪いけどちょっといいかな。さっきのソフトと一緒に、表計算ソフトで作ったテンプレートも送ってもらったんだけど、セルの書き換え方がよくわからんくて」
「あ、はい。…え〜と、結合されてるんでスね。選択して、このボタンで解除できまスよ」
「ありがと。いつも悪いね…あれ?」
 宇井は、黒井が使っていたパソコンに、何か表示されたように見えた。しかし、見直すと消えていた。
「…いや、ごめん。たぶん気のせいみたい」
「またまた〜。脅かそうったってダメですよ」
 そう言って黒井は自分の席へ戻った。今は、卸先の会社ごとに発行している売上伝票を、パソコンで編集しているところだ。商品は、バーコードで流れや売り上げを管理するシステムが構築されているが、たな卸しなどで意外と漏れを発見する。客からの要望で仮押さえをしたり、商品を借りて不足している場所へまわしたりといったことがあるので、自分で管理しなければならない場合もある。使いにくいシステムだとは思うが、要望をまわしても受け入れられなかったので、使えるところだけ使っている。
「え〜と、有限会社のキットクルーに…今月はン万円と…」
などと独り言をつぶやいた瞬間だった。
「ぐわっあ〜〜!!」
 画面いっぱいの暗さ。
 よどんだ雰囲気の少女。
 女性の叫び声。
 黒井は、年甲斐もないと心で思いつつも、生理的な恐怖に叫ばずにはいられなかった。
 驚いた表情のままで、宇井をみる。
「ふふ、ひっかかった」
 意地悪な笑顔でつぶやいていた。